相続放棄をした場合の不動産の登記手続き

司法書士山本宣行のコラムです。
ご相談者の皆さまが疑問に思われるような法律手続きのお話しや普段聞き慣れない法律用語など身近な法律問題を取り上げて解説致します。

相続放棄と他の相続人や第三者への影響

相続の放棄をした相続人は相続開始時に遡って初めから相続開始が無かったものとなります。
これは不動産の相続による所有権移転登記の有無にかかわらず相続放棄の効力が誰に対しても生じるべきものと解されております。
(参考 民法939条、 最判 昭42・1・20民集21・1・16)
遺産として被相続人名義の不動産がある場合に相続放棄をすることで不動産名義変更に関してどのような登記手続きが必要となり、相続放棄をしていない他の相続人や第三者へ影響などが生じてくるのか事例に分けて説明していきたいと思います。

相続放棄をした場合に必要となる登記手続きの事例

事例①相続放棄をしない他の相続人が被相続人名義の不動産を取得する場合

この場合は相続放棄をした者を除いた他の相続人が不動産を取得した旨の名義変更登記手続きを行うことになります。
また法定相続による登記手続きを行う必要は無く、直接所有権を取得した他の相続人へ不動産の名義変更登記が可能となります。
なお、法務局への登記申請の際には家庭裁判所の審判で受理された「相続放棄申述受理証明書」の添付が必要となります。
家庭裁判所から放棄をした者に通知される「受理通知書」や相続放棄をした旨の本人作成の書面では相続放棄をした証明書とは法務局に認められませんので家庭裁判所に相続放棄が受理された際は「相続放棄申述受理証明書」の交付を請求するようにしましょう。

事例②相続放棄の申立てを行い、家庭裁判所に受理されるまでの間に他の相続人が
   被相続人名義の不動産へ法定相続分による登記手続きをしてしまった場合

相続放棄の申述が法定相続分による登記手続きの後で受理されると相続放棄をした者は初めから相続人では無くなるため登記されてしまった各相続人の共有持分に訂正が生じます。
この場合は既におこなった登記を更生するのではなく相続放棄をした者から他の相続人へ「相続の放棄」を原因とする「持分移転登記」によるべきとされています。
(参考 昭26・12・4民甲2268、昭30・11・21民甲2469)
共同相続人全員のための法定相続分による登記手続きを行ったのが他の相続人ではなく被相続人の債権者による代位での登記手続きであった場合でも同様となります。

事例③生前に不動産を第三者に売却したが、所有権の移転登記手続きを行わないまま
   売主が死亡してしまったため、登記名義が被相続人となっている場合

被相続人が第三者へ売却したあとに行う不動産の名義変更登記の申請義務は相続人に承継されるため、義務を負う相続人全員で被相続人に代わって登記申請義務者となる必要があります。
ただし、相続放棄をした相続人は相続開始に遡り初めから相続人ではなくなるため売却した第三者への登記申請義務はなくなります。
(参考 昭34・9・15民甲2067)

事例④被相続人の債権者が代位で共同相続人全員のための法定相続分による登記手続きを行い
   仮差押さえの登記をしたが、第1順位の相続人全員が相続放棄を行ったため、第2順位の
   相続人が不動産を単独で相続することになった場合

この場合は第1順位でなされた相続登記から第2順位の相続人へ「相続の放棄」を原因とする「所有権移転登記」によるべきとされています。
債権者から代位で第1順位の相続人になされた所有権移転の抹消登記の手続きを行う必要はありません。
(参考 昭33・4・15民甲771)

事例⑤相続人固有の債権者が、被相続人名義の相続不動産を相続人に代位して相続登記手続きを
   行い仮差押さえの登記をしたが、そのあとで相続放棄の申述が受理された場合

相続放棄をした者は初めから相続人では無くなるため、原則として仮差押えの登記は無効となります。
不動産の名義を更生登記などの手続きで他の正しい相続人へ共有持分などの訂正を行う場合は登記申請の際の添付書面として既に登記がなされている仮差押え権利者の承諾を証する書面が登記簿上の利害関係人として必要になると思われます。
(参考 昭39・4・14民甲1498)

 

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