不動産を家族信託して受託者が変更した場合の登記について
司法書士山本宣行のコラムです。
ご相談者の皆さまが疑問に思われるような法律手続きのお話しや普段聞き慣れない法律用語など身近な法律問題を取り上げて解説致します。
不動産の家族信託で受託者が変更する場合
高齢になった方が認知症対策として家族信託の手続を利用して不動産等の財産管理について信頼のおける子供や親族を受託者として所有名義の不動産を管理・処分・運用などを目的に信託契約を締結した場合には、第3者に対して信託契約により受託者に管理権限があることを主張できるようにするため、委託者名義であった不動産は受託者である子供や親族等の受託者名義へ不動産の名義変更として移転登記手続及び信託登記を行うことになります。
信託の効力は原則として信託契約の締結により生じますが、受託者が管理処分する権限があることを第三者に公示するために受託者名義へ所有権移転の名義変更手続きを行う必要があるからです。
(参考 信託法4条1項)
本コラムでは不動産の所有権移転登記や信託登記が行われ受託者名義になったのち受託者が死亡等の理由により新受託者へ変更となる場合には不動産の登記手続が必要となりますので説明をしたいと思います。
受託者の任務終了事由について
家族信託において下記の受託者の任務終了事由に該当する場合には家族信託は終了しません。
したがって、新受託者が新たに就任し引き続き、不動産等の信託財産を信託目的に従って管理・処分・運用をしていくことになりますので、前受託者から新受託者への移転登記を行っていく必要があります。ちなみに信託登記は既に行われているため重ねて信託の登記を行う必要はありません。
信託法56条に定める受託者の任務終了事由
1、受託者である個人の死亡
2、受託者であう個人が後見開始又は保佐開始の審判を受けたこと
3、受託者(破産手続開始の決定により解散するものを除く。)が破産手続開始の決定を受けたこと
4、受託者である法人が合併以外の理由により解散したこと
5、信託法57条の規定による受託者の辞任
6、信託法58の規定による受託者の解任
7、信託行為において定めた事由
新受託者への変更による権利の移転登記について
①申請人について
(参考 不動産登記法60条)
※共同受託者の場合は残存受託者及び辞任や解任等で任務終了した受託者との共同申請となります。
(参考 不動産登記法100条1項)
1、受託者の死亡
※受託者が複数名の共同の場合、1名が死亡した場合には残存する複数の受託者が登記申請人となります。
2、受託者が後見開始又は保佐開始の審判を受けたこと
3、受託者が破産手続開始の決定を受けたこと
4、受託者である法人が合併以外の理由により解散したこと
5、受託者が裁判所又は主務官庁の解任命令を受けたこと
②登記の目的や原因及びその日付けについて
単独名義の不動産:「所有権移転」による登記
共有名義の不動産:「〇〇持分全部移転」による登記
原因:「年月日受託者変更」
※登記実務上、具体的な終了事由の記録は求められておりません。
※但し死亡による場合は「年月日受託者死亡」となります。
日付:前受託者の任務終了日が原因日付となり新受託者が選任された日ではないことに注意が必要です。
※信託法75条1項では新受託者が就任したときは、前受託者の任務が終了した時に、その時に存する信託に関する権利義務を前受託者から承継したものとみなすと定められており、 前受託者の任務終了日が明らかなら新受託者の就任日はあまり重要な意味を持たないと考えられているようです。
登記申請で必要となるおもな書類や登録免許税はどのくらいかかるのか
・死亡の事実が分かる戸籍
・後見や保佐開始の審判書又は後見や保佐の内容が記載された登記事項証明書
・法人が解散した内容がわかる登記事項証明書
・裁判所又は主務官庁の解任命令があったことの分かる情報等
・新受託者の住民票等
・登記識別情報(登記済証)
※前受託者が取得している不動産の登記識別情報(登記済証)
・印鑑証明書
※前受託者の作成後、3か月以内の発行のもの
例:信託行為で受託者の辞任に関して受益者の同意を要件としている場合等
※この場合は受益者の印鑑証明書を添付することが好ましいと考えられます。
登記申請で発生する登録免許税
受託者の変更に伴う新受託者への権利移転の登記にかかる登録免許税は登録免許税法7条1項3号より非課税とされています。
参考:前受託者が死亡した場合における新受託者の登記記録例及び信託目録例
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