配偶者居住権について

ご相談者の皆さまが疑問に思われるような法律手続きのお話しや普段聞き慣れない法律用語など身近な法律問題を取り上げて解説致します。

配偶者の居住権を保護するための見直しについて

配偶者が亡くなった場合には残された配偶者にとって住み慣れた建物に引き続き住みたいと思われるのが一般的ではないでしょうか。
従来は遺言や遺産分割協議などで残された配偶者が居住用不動産の名義変更登記を行うことで所有権を取得することで安心して暮らすことができるといえます。
一方で不動産を残された配偶者が相続することで、他の相続人の中に法定相続分を主張する者がいると残された財産内容によっては、不動産を取得した配偶者が今後の生活に必要となる金融資産を思うように相続できず、場合によっては相続で取得した不動産を売却換金して生活資金に充てなければならないような事態も考えられます。
そこで相続法の改正では配偶者の居住権を短期的に保護するための方策として配偶者短期居住権と配偶者の居住権を長期的に保護するための方策として配偶者居住権を創設して居住権の保護の強化を図っています。
相続法制の見直しについては平成30年7月13日に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)」及び「法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号)」が公布されました。
「配偶者の居住の権利」に関しては公布日から起算して2年を超えない範囲内(2020年7月12日まで)において政令で定める日を施行期日としています。
相続法の見直しは、昭和55年の改正以来となり一般市民や実務に与える影響も大きなものとなりますが本コラムでは配偶者居住権についてポイントを説明をしていきたいと思います。

配偶者短期居住権について

改正のポイント

◎配偶者は相続開始時に故人名義の居住建物に無償で住んでいた場合に配偶者短期居住権を取得する。
◎遺産分割協議を行う場合には居住建物の帰属が確定する協議が終了するまでは配偶者短期居住権は認められる。
※ただし6か月以内に遺産分割協議が終了して配偶者が居住建物の所有権を取得しない場合であっても相続開始から最低6か月間は配偶者短期居住権が認められることになる。
◎居住建物が遺贈などで第三者に帰属する場合や配偶者が相続放棄した場合には、居住建物を取得した所有者から消滅請求を受けてから6か月を経過するまでは配偶者短期居住権は認められる。

現行制度では

現行制度では配偶者の短期的な居住権の保護に関しては、配偶者が故人名義の居住建物に居住していた場合には原則として使用貸借契約が成立していたものと推認されていましたが故人が居住用建物を第三者に遺贈してしまった場合や反対の意思表示を行っている場合などは使用貸借契約が推認されないため残された配偶者の居住権が保護されないことになっていました。
(参考 最判平成8・12・17民集50・10・2778)

注意ポイント

〇配偶者の短期居住権はあくまで配偶者のみの適用となりますが、以下の場合には配偶者であっても適用されません。
・配偶者が相続欠格事由に該当する場合
・配偶者が廃除により相続権を失っている場合
〇配偶者が相続開始時において店舗兼住宅などのように居住用建物の一部のみを無償で使用していた場合には配偶者短期居住権は使用していた部分のみにしか効力は及びません。
〇配偶者短期居住権は従前の用法で使用する権限が認められているだけであり、基本的には収益を行う権限や居住権の譲渡は認められておりませんので違反した場合には居住用建物の所有者から消滅請求を受けてしまうため注意が必要です。

配偶者居住権(長期)について

改正のポイント

◎配偶者は相続開始時に故人名義の居住建物に住んでいた場合に終身又は一定期間、配偶者が居住用建物を使用できる配偶者居住権を取得する。
◎遺産分割協議を行う場合には遺産分割協議の終了から配偶者の終身を原則として配偶者居住権は認められる。
※ただし遺産分割協議や遺言、家庭裁判所の審判などで別段の定めをした場合には居住権の存続期間はその定めによることになります。
◎配偶者居住権の遺贈については婚姻期間20年以上の夫婦に関する居住用の建物又は敷地について遺贈または贈与について特別受益の持ち戻し免除の意思表示をしたものと推定される旨の規定の適用が準用されるものとしています。(参考 改正案民法1028条3項)
◎配偶者居住権は原則として残された配偶者が終身まで住み慣れた自宅の居住を継続しながら所有権の評価額よりも低くなるため、他の相続財産の取得分が従来の制度と比較した場合に多く取得することが可能となります。

現行制度では

現行制度では故人が遺した相続財産の内容や額によっては、配偶者が居住用建物を相続で取得する場合で、他の相続人が法定相続分を主張した場合には他の金融資産などの財産を取得出来なくなってしまう可能性があります。

注意ポイント

〇配偶者居住権は遺産分割(協議、調停、審判を含む)や遺贈、死因贈与契約により権利が発生しますが成立要件として故人名義の居住用建物に相続開始時に居住していたことが必要となります。
〇配偶者居住権は居住用建物の全部に関して、従前の用法にしたがって使用及び収益する権限が認められております。
仮に、配偶者が相続開始時に居住用建物の一部しか使用していないだけの場合であっても、効力は居住用建物全部に及ぶことになるところが配偶者短期居住権と大きく異なる部分の1つといえます。
〇配偶者居住権は第三者に譲渡することも認められませんし、所有権を取得した者の承諾がないと改築若しくは増築、第三者に使用若しくは収益させることは出来ません。
違反した場合には居住用建物の所有者から相当の期間を定めて是正催告があっても是正されない場合には消滅請求を受けてしまうため注意が必要です。(参考 改正案民法1032条)
〇配偶者居住権を第三者に対抗するためには、配偶者居住権を設定する登記が必要となります。
※居住用建物を取得した者への相続登記を行ったうえで配偶者居住権の設定登記を行っていくものと考えられますが不動産登記法の改正により登記実務では今後具体的になっていくことになるでしょう。
〇配偶者居住権を取得した場合には財産的価値に相当する価格を相続したものとされすため、相続税の課税対象になってくると考えられるため、評価方法にも注意が必要と思われます。

まとめ

配偶者の居住権を保護するための新たな制度は配偶者保護の強化から画期的とも思われますが、相続税の評価額算定の複雑化や新たな設定登記の必要性や居住権を譲渡出来ないなど注意すべきポイントも多く、遺産分割が難航してしまう可能性も考えられます。
遺産分割の際には専門家などに相談のうえ、残された相続人がより円満となるように新制度を活用して頂きたいと思います。

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